針金アート。知れば知るほど面白い 〜1本の線が「凡」という木になるまで〜
意外と歴史のあるワイヤーアート
「針金を曲げるだけでアートになるの?」って思う方もいるかもしれないけど、これが意外と奥の深い世界なんです。
紀元前のエジプトから始まって、有名な彫刻家様たちが
「線だけで立体を作る」表現を突き詰めてきたのがワイヤーアート。
この記事ではその歴史や技法、材料選びから道具の話までひと通りご紹介したあと
実は私自身も1本の線でこのワイヤーアートを作ってる一人として、
自分の作品「凡」についても紹介します。
0.28mmのステンレスワイヤー1,800本、制作時間60時間
そして幹も枝も葉もぜんぶ1本でつながってる ――
そんな作品ができるまでの話、ぜひ覗いていただけますと幸いです。🍃
そもそもワイヤーアートって何?
ワイヤーアートっていうのは、簡単に言うと金属線をぐいぐい曲げたり結んだり絡めたりして、彫刻やオブジェ、アクセサリー、雑貨、文字なんかを作っちゃう表現のことです。
英語だと彫刻寄りは「wire sculpture」、アクセサリー寄りは「wire wrapping」って呼び分けたりするらしいです。
日本語だとまとめて「ワイヤーアート」「針金アート」でOKだと思います。
粘土や木は「面」で形を作りますが、ワイヤーは「線」だけで立体を表現するところが魅力のひとつです。
歴史をざっくり 〜紀元前3000年〜現代〜 そもそもの始まりは装飾品から
金属線を使う文化ってめちゃくちゃ古いのです。
紀元前3000年頃のエジプトの装飾品が最古のワイヤークラフトって言われてます。
そこからギリシャ、中近東、古代インカ帝国へとじわじわ広まっていったらしい。
ただこの頃はまだ「実用の素材」止まりで、これ自体が「アート」になるのは20世紀まで待つことなったそうです。
日本でも古墳時代の遺跡から青銅や銅で作った針金っぽい金属が出てきていて
奈良時代には加工技術がちゃんと確立。
仏具や装飾品に使われてたみたい。
その後は鉄は武具や針、金銀は装飾品、銅はふるいや金網、みたいに素材ごとに用途が分かれていったとのこと。
アレグザンダー・カルダー ―「線で彫刻する」を発明した人
現代ワイヤーアートの生みの親と言えるのが、アメリカの彫刻家アレグザンダー・カルダー(1898–1976)氏。
1926年、パリで人形作りをやってたのがきっかけで、サーカスの団員たちを動く針金模型で再現した名作「Cirque Calder(カルダーのサーカス)」を作り始める。
刃物を呑む芸人とか猛獣使いとか、実際に動かせる人形を全部ワイヤーで表現しちゃったのがすごい!
1927年にはニューヨーク、1930年にはパリで個展も開いてる。
カルダー氏が評価されているのは、
対象を「描く」んじゃなくて針金そのもので空間に線を走らせた最初の人ってところです。
輪郭をそのまま立体にしちゃう発想で、線を彫刻の主役に押し上げました。
本人も「ワイヤー彫刻は対象を遮らずに透けて見せられる」ってこの表現の可能性にかなり惚れ込んでたみたいです。
あと後年には、風とかでゆらゆら動く「モビール」も生み出してる。これもカルダー氏の発明!
ルース・アサワ ― 編んで作る、透ける彫刻
日系アメリカ人の彫刻家ルース・アサワ氏は、1950年代にワイヤーを編み物みたいにクロシェ編みして立体を作る技法で一気に有名になった人です。
1955年のサンパウロ・ビエンナーレに出品したりして注目を集めました。
きっかけはメキシコのトルーカで村人が亜鉛メッキワイヤーでカゴを編んでるのを見たことだったらしい。
「線の経済性に興味があった。空間に何かを閉じ込めつつ、遮らない。透明なまま」っていう本人の言葉がめちゃくちゃ本質を突いていて多くの人の関心を得たようです。
1962年以降は結んで組み上げる「結びワイヤー彫刻」シリーズも作ったことでも有名です。
海外勢の作家
アレグザンダー・カルダー ― 「線で空間を描く」とモビールを両方生み出した張本人
ルース・アサワ ― 編みワイヤーの透明な彫刻で有名。ホイットニー美術館とかでも展示されてる
エリザベス・ベリエン ― 1960年代からワイヤー彫刻をやってて、後輩たちから「ワイヤーのゴッドマザー」って呼ばれてる大御所
ロビン・ライト ― ステンレスワイヤーで妖精を作るイギリスの作家。代表作は「ダンシング・ウィズ・タンデライオンズ」
他にもガビン・ワースやキュー・キング、ブライアン・ボイヤーみたいに、リサイクル素材使ったり編み込みだったり羽と組み合わせたり、今も色んなアプローチで活動してる作家がたくさんいる。
日本勢の作家
HAyU(小川学) ― 動物モチーフがメインで、飾る人が自由にポーズを変えられるワイヤーアートを作ってる
法月健一 ― 平面から立体まで幅広くて、インテリアとしても映える作品が多い
金子美穂 ― 針金と光と影、花、暮らしを組み合わせた空間作りをしてて、月イチで自分のギャラリーも開催
Creemaとかのハンドメイドマーケットだと、真鍮のリースや照明で一点物を出してる作家も人気
材料の話 〜番手と金属選び〜
クラフト用ワイヤー:太さと素材別の特徴などのまとめ
クラフト用のワイヤーについて下記表にまとめてみましたのでご参考ください
道具は最初この3つでOK
※これだけ揃えとけば始められるという3つのアイテムです
「ラウンドノーズプライヤー(丸ペンチ)」
先が円錐状になってて、きれいな曲線や丸カンを作るのに必須
「ノーズプライヤー(ラジオペンチ)」
細かい部分を挟んだり、根元でガツンと鋭角に曲げたりできる万能選手
「ニッパー」
ワイヤー切るのに、これがないと始まらない
慣れてきたらあると便利なやつ
フラットノーズプライヤー(部品をしっかり保持したり、曲がりを直したり)
ニードルノーズ・ロングノーズ・ベントノーズ(細かい作業用の各種先細ペンチ)
ワイヤールーパー(同じサイズの輪をポンポン作れる)
ナイロンジョープライヤー(傷をつけずに曲げグセを直せる)
ハンマー・金床(叩いて硬化させたり平らにしたり)
リングマンドレル(指輪のサイズ調整に必須)
ヤスリ・ビーズリーマー・金属磨き(仕上げ作業に)
道具選びのコツ
くわえる部分にギザギザ(ローレット)が入ってる工具はワイヤーに傷がついちゃうから、アート用途だとローレットなしを選ぶのが吉。ジョイントがガタつかない、しっかりした作りのものを選ぶのもポイント。ニッパーは刃のエッジが浅めで、実際に使うワイヤーより余裕を持って切れる能力のものを選ぶと安心。長時間作業するなら握りやすいエルゴノミックハンドルだと疲れにくいよ。
技法いろいろ
曲げ加工 ― 基本のキ。丸ペンチで曲線、ペンチの腹で鋭角を作って、線をどんどん立体にしていく
巻き・結び・絡ませ ― 線同士を絡めて形をキープする方法。感覚でぐるぐる巻きながら進める作り方もアリ
編み・織り ― ルース・アサワがメキシコのカゴ編みからヒントを得た、ワイヤーを編んで立体化するテクニック
ハンマリング ― 叩いて加工硬化させることで強度アップ、フラットな面も作れる
ラッピング(石留め) ― ビーズや原石をワイヤーで包み込むアクセサリー技法。プライヤーやマンドレル、ジグが活躍する
私のワイヤーアート作品について
ここまでワイヤーアートの歴史や技法をあれこれ紹介してました。
実は私自身もこのワイヤーアートを作ってる一人です。
最後に自分の作品について、少しお話させていただきます。。

(編み込んだワイヤーのアップ画像)
使ってるワイヤーは0.28mmのステンレス線。かなり細い部類で、さっきの番手表で言うと#28くらいのサイズ感です。
これを、1,800本使って1つの木にしていきます。
多く試しましたが、その本数を重ねないと出したい密度と質感が出せないことに気づきました。
電動工具は一切使わずに全部手作業で編み上げてるのがこだわりです。
カルダー氏が「線で空間を描いた」ように、
ルース・アサワ氏が「編んで透明な彫刻を作った」ように
私も自分の手の感覚を頼りに、1本1本のワイヤーを編み込んで形にしていくことに手作業だからこそ出せる有機的な揺らぎがあると信じています。(^^
(編み込み途中の風景)
そして一番のこだわりが制作方法です。
木などをモチーフにしたワイヤーアートって幹・枝・葉をそれぞれパーツとして作って、あとから組み合わせるっていうやり方が多いんです。
ただ・・・私の場合は、幹も枝も葉も、全部たった1本のワイヤーがつながったまま作るということを大事にしています。
途中で切ったり継いだりせずに
1本の線がずっと絡み合いながら幹になり、枝になり、葉になっていくイメージ・・・です
1作品にかかる時間はだいたい60時間。地道に手を動かし続けないと形にならない作業ですが、やりがいがあります。
こうやって時間をかけて向き合ってる先にあるのが、自分の中の一つのテーマ。
整えられた美しさじゃなくて、あるがままの、ありふれた風景の中にある木の美しさを表現したいと思っているからなんです。
特別な芸術作品としての木じゃなくて、誰もがどこかで見たことのある、伸びやかに生きるただの木。
だからこの作品には「凡」という名前をつけました。
パーツを組み合わせるんじゃなくて
1本の線の運命がそのまま作品全体の運命になる ――ジャジャジャジャーン(笑)
(凡 陽-HARU-)
(凡 陽-HARU-)
そんな作り方に
自分なりのこだわりと面白さを感じながら制作を続けていきます!
Shop:福乃屋(sachinoya)
Handcraft Artist :SACHINO

